特集 ニッチを狙え!
CASE1
●共和技研
空気圧機器の設計・製造
空気でボールを飛ばす唯一無二のピッチングマシン
福岡県に本社を置く共和技研は、世界で唯一の「エアー式ピッチングマシン」で飛躍を遂げた。そのポイントは試行錯誤の末に生み出された独自技術と、初心者から上級者まで幅広いユーザーをひきつける機能性の高さにある。
空気圧を使ってボールを発射する「エアー式ピッチングマシン」。その製造を手がけている唯一の企業が福岡県にある。
「当社が製造・販売しているピッチングマシン『TOPGUN』(トップガン)は、空気圧制御のノウハウを生かして開発した国内唯一のマシンです。主に野球チーム用とバッティングセンター用の2種類を展開しており、全国のバッティングセンター、大学や高校の野球部、少年野球、草野球チームのほか、福岡ソフトバンクホークスや、王貞治ベースボールミュージアムでも使用されています」
共和技研の田中完二社長は製品の概要についてこう語る。
TOPGUNは時速70~170キロの速球に加えて、カーブ、シュートなどの変化球を投じることが可能。従来のピッチングマシンでは、球種や球速が機器ごとに固定されているが、同社のマシンでは球種・ストレートの球速はもちろん、ボールの高さを1球ごとに変えられることから、その機能性の高さが評価されている。空気圧でボールを飛ばす技術の特許も取得済だ。
「TOPGUNでは最速で約230キロのストレートを放つことができますが、安全性と実用性を考慮して、お客さまに販売する製品については最速170キロに制限をかけています」と田中社長は説明する。
田中完二社長
共和技研株式会社
創 業:1983年3月
所在地:福岡県大野城市仲畑2-3-38
売上高:1億3000万円
社員数:7名
ピッチングマシンは、バネの反発力でボールを投じる「アーム式」、ウレタン製ローターにボールをはさみ、ローターを回転させることでボールを射出する「ローター式」が主流で、巷のバッティングセンターや野球チームが導入しているマシンも、この二つが多くを占めている。
このような状況のなか、同社がエアー式のマシンを開発したのは2000年のこと。きっかけは、仕事の合間に社員と交わした雑談だった。
「『空気圧を使えば高速のボールを発射できるんじゃないか』という話題で盛り上がり、面白そうだと感じたことが事の始まりです」(田中社長)
同社は1983年の創業以来、主に空気圧機器の設計、加工、セットアップ、メンテナンスなどを展開してきた。これまでの業歴を通じて培ってきた空気圧制御のノウハウをフル活用し、わずか2カ月で試作品が完成。試作段階で300キロにのぼる球速と、狙ったところにボールを投げる高いコントロール力を実装することに成功した。
ボールを高速かつ正確な精度で発射できること、エアー式のピッチングマシンが世の中に存在しない画期的な製品であることに商機を感じた田中社長は、すぐさまピッチングマシンの商品化を決断する。
「当初は遊園地にあるような的当てゲーム用の装置を想定していましたが、開発時点で市場が小さいことが分かり、完成形をピッチングマシンへと切り替えました」(田中社長)
ピッチングマシンに照準を合わせたのは顧客の何げない一言から。福岡県はプロ野球チームが本拠地を構えるなど、野球熱の高い地域。こうした地域性にも後押しされ、田中社長は世界初となるエアー式ピッチングマシンの開発プロジェクトを始動。本業の合間を縫って開発を進めることとなった。
しかし、プロジェクトは早々に暗礁に乗り上げた。原因は「ボールの回転」にある。球種によって違いはあるものの、人間が投げるボールの回転数は1秒間に約40回転におよぶ。一方、試作品はボールに回転がかからないことから、実用化にはほど遠い結果となった。
ボールに回転を与えるにはどうすればいいか――。試行錯誤を重ねた末に生み出したのが、ゴム製の回転装置(スピンパッド)である。
田中社長とともにマシンの開発に携わった、田中慎一郎部長はこう述懐する。
「スピンパッドをマシンの射出口に取り付けることで、ボールに回転がかかるようになりました。ちなみにスピンパッドについても特許を取得しています。素材選びや形状の研究などでトライ&エラーを繰り返し、完成までに3~4年もの年月がかかりました」
スピンパッド(写真右側)で玉の軌道を調整
田中慎一郎 TOPGUN事業部部長
エアー式ピッチングマシン「TOPGUN」は
同社の看板製品
07年、かくして世界初のエアー式ピッチングマシン「TOPGUN」の製品化にこぎつける。翌年にはある高校の野球部が購入。TOPGUNの記念すべき初受注を飾った。
立て続けに表彰を受けたことで、TOPGUNの売れ行きが加速していった。08年には第33回発明大賞で発明奨励賞を、09年には第3回ものづくり日本大賞で九州経済産業局賞、平成23年度九州地方発明表彰で九州経済産業局長賞を受賞。結果、福岡の町工場が唯一無二のピッチングマシンを開発したとして、多くのメディアで取り上げられるようになり、製品の知名度と引き合いが一気に拡大した。
「前述したようにTOPGUNは速球や変化球の精度の高さ、1球ごとに球種・速球の球速・球筋を変更できる機能性に定評があるので、この製品を導入しているバッティングセンターは、初心者から上級者まで顧客を幅広く取り込んでいます。また、装置の頑丈さ、不具合にも迅速に対応するアフターフォローも好評です」(田中部長)
今や全社の売上高の約半分を、TOPGUN事業で占めるようになったという同社。現在は、製品のショールームを兼ねたバッティングセンターの建設を計画中だという。